「頭の良さ」ってなんでしょうか?
かつては、IQ というものが一つの指標になってきました。IQ は、流動的知能を測るものとされています。
流動的知能とは、結晶性知能と対をなす言葉です。
結晶性知能が、知識や経験によって、脳内に蓄積していける知能であるのに対して 流動的知能は、蓄えた知識や経験をどのように効果的に活用できるかを意味する知 能です。創造性とか、洞察力とか、パターン認識のような能力が含まれます。
もともとは IQ は生まれつき固定されているもので、一生変わらないものとされてきました。
しかし、経験や知識を蓄えていくと、創造力も向上するように、
その後の人生の過ごし方次第で IQ も変わることがわかってきました。
したがって、幼児期において IQ というものの実効性が疑われつつある昨今の情勢です。
たとえ幼児期に IQ が高くても、学年が上がっていくにつれて、成績が思わしくなくなっていくケースも珍しくありません。あるいは、学生のうちは良かったけれども、卒業して 社会に出てから、必ずしも優秀ではいられないといったことが起きているからです。
IQ よりもっと大事なのは、今後の勉強によってどれだけ能力をのばせるのか、ですよね。能力を伸ばす能力、とでもいえばいいのでしょうか・・・。
たとえば、そのような能力に関係する一つの見方として、「グリット」(諦めずにやり抜く力)というものがあります。
ペンシルベニア大学の心理学者、Angela Duckworth 氏のグリットに関する TED スピ ーチがこちらです。
グリットとは根気強く長期的にやり遂げる力(あきらめずに、やり遂げる力)といえます。このスピーチでは、成功を収めるためには、生まれつきの能力や IQ よりも、グリットの方が重要であると述べています。
この「グリット」と、車の両輪として働くのが、ワーキングメモリです。
ワーキングメモリが強力であれば、グリットもますます強化されます。
ワーキングメモリは学習能力を向上させるだけでなく、感情のコントロール、根気強さ をも向上させるからです。ワーキングメモリが強力であれば、目先の報酬を我慢して 未来の成功に向かって努力するための自制心を強くもつことができます。
では、ワーキングメモリとは何でしょうか?
ワーキングメモリとは、一時的に何かを記憶にとどめながら、それを用いて何らかの 作業を行うような機能を指します。作業記憶などと言われることもあります。
ワーキングメモリは、目の前にあるものを覚えて作業を行うこともありますが、すでに 自分がもっている長期記憶や短期記憶から必要な記憶を引っ張り出して利用するこ ともあります。
短期記憶とワーキングメモリは、一時的ですぐ失われる記憶という意味では違いが分かりにくいです。
ワーキングメモリが単なる短期記憶と違う点は、記憶をとどめるだけではなく、それを 用いて作業することまでが含まれるという点です。
たとえば、計算を行うとき3+8=11というのは
3と8という数字をワーキングメモリに入れておきつつ
それらを足すという作業を行っているわけです。
文章を読むときでもそうです。
ひとつの文章を理解するためには、主語、述語、修飾語などそれぞれの
単語をワーキングメモリに格納しつつ
それらを文法に従って関連付けるという作業を行っています。
面白いのは、ワーキングメモリが感情の制御にも大きな力を発揮していると思われる点です。
何らかの恐怖やプレッシャーや痛みを感じているとワーキングメモリの容量が減ります。
たとえば、通常の精神状態だと7個の数字を覚えられる人が
恐怖やプレッシャーや痛みを感じていると覚えられる数字の個数が 3 個になってしま うといった具合です。
逆に、ワーキングメモリの機能が強いと、このような恐怖やプレッシャーや痛みを無視 して必要なことに集中できる能力が上がります。
たとえば、大勢の人の目の前でスピーチをしなければならないときにとても上がってしまって、話もしどろもどろになってしまうというのはワーキングメモリがプレッシャーによって低下している状態です。
そのような場合、ワーキングメモリを鍛えることによってあがり症を改善できる可能性 があるということです。
目先の欲求に対抗するのにも、ワーキングメモリの強さが必要です。
有名なマシュマロテスト。
ご存知の方も多いかもしれません。これは、子供に、目の前 のマシュマロを食べないでいられたら、後でたくさんマシュマロをあげるという約束をし て、大人は、子供の前にマシュマロを置いたまま、部屋を出ます。
大人が目を離しているすきに、子供が目の前の少数のマシュマロを食べてしまうのを 我慢できるかを見るのが、このテストの目的です。後々まで追跡調査をすると、このときマシュマロを食べずに我慢した子供たちの方が、社会に出た後、より多くの収入を得ていたのだそうです。
この誘惑に耐える力も、ワーキングメモリを強化することによって向上させることが可能だと考えられています。 誘惑に耐えられず、ゲームや過食などの依存症になってしまった場合にはワーキングメモリの機能も落ちます。
また、ラットでの実験ではありますが
目の前の困難(たとえば、より体格の大きいラットと対決するなど)
に立ち向かった場合と、逃げ出してしまった場合を比較すると
逃げ出してしまった場合には、BDNF の低下が認められ、うつ症状が出やすくなったそうですが
立ち向かったラットは何事もなく健康的に過ごせたそうです。
BDNF が低下すると、神経細胞が萎縮しワーキングメモリも低下すると考えられています。
ですから、はねのけるべき誘惑を拒否する力はワーキングメモリの力によるものですがワーキングメモリが十分に強くない場合は、誘惑に負けてしまい
かつ、ますますワーキングメモリの力が低下してしまうという結果を生んでしまいます。
いかがでしたか?
ワーキングメモリとは、何か記憶を保持しながら、それを活用して推論を行ったり、計算を行ったり、文章を読んだり、連想を生み出したりと、記憶した情報を高度に操作す るために必要な、脳の機能です。
と同時に、目先の欲求を抑制し、未来を見据えた目的にかなう行動を保ち続ける自制 心も、ワーキングメモリの強さによって決まります。
頭の良さと、感情のコントロール、この2つの機能を併せ持っているのが「ワーキング メモリ」なのです。
人生をよりよく生きるために、とても重要な役割を担っているといえます。
次回は、ワーキングメモリの鍛え方についてお伝えします!
本日は、東京都世田谷ちゅうしん整体院 村山先生のコラムを紹介いたしました。
前回のコラム『ビタミンDとニューロステロイド』は、こちら