近年、ビタミン D への注目が高まっています。
いま、一番ホットなビタミンです。
ご存知の通り、ビタミン Dというのは、本来のビタミンの定義から外れた、ちょっと変わったビタミンです。というのも、「ビタミン」というのは、本来、体内で自前では産生できない、摂取必須な微量物質のことだったわけなのですが、ビタミン D は例外的に、皮膚の細胞でつくることができるのですね。ですから、どちらかというとホルモンに近いイメージになります。構造的には、ステロイドホルモンの一種といえます。体内での合成もコレステロールを原料として行われます。
2019 年度の論文だけで見ると CiNii による日本語論文検索では、ビタミン D が53件 でトップ(続いてビタミン B33件、ビタミン C25件と続きます)
Google Scholar による日本語、英語論文検索ではビタミン D が 31900 件でトップ(続 いてビタミン A の25100件、ビタミン K の23400件、ビタミン E の22500件)
これだけの論文が出てくるのも、ビタミン D が従来わかっていた以上に、体内の色々 な臓器で働いていることがわかってきているからなのかもしれません。 もともと、歴史的に見れば「くる病」の原因がビタミン D 不足にあるという発見からスタ ートしていて、これにより、ビタミン D が骨形成において大きな役割を果たしていること が明らかになったのでした。しかし、近年、骨以外のかなり広範囲にわたる臓器にお いて、ビタミン D の受容体が見つかっており、その機能についての研究が進められています。
たとえば、妊活に熱心な先生方であればご存知のように、低 AMH の改善効果に注目が集まっています。また、オーソモレキュラー療法の溝口徹先生は、腸内の免疫機構や、腸内粘膜の結合組織、皮膚の表面の抗菌ペプチド産生などにおけるビタミンD の重要性を花粉症に関するご著書で訴えられています。
慈恵医大附属柏病院の HP でもビタミン D の役割を以下のように、多岐にわたってあげています。
ビタミン D は骨の成長や骨の再生だけでなく、細胞増殖、神経筋、免疫機能、炎症を変化させている。最近では多くの研究が行われ、ビタミン D の欠乏は、呼吸器感染症 や呼吸器疾患、自己免疫疾患、各種がん、糖尿病、痴ほう症、うつ病、妊娠結果に関連する可能性がある。 (参照※1)
この記事で注目したいのは、脳におけるビタミンD の効能です。ビタミンD は血液脳 関門を通過できることが知られています。したがって、脳への影響は大きいと考えら れます。ここでは、ビタミンD の効能を2つにわけてご紹介します。
1.ビタミンD は脳内神経細胞の成長・発達を助ける。
たとえばビタミンD が脳の発達に影響を及ぼすことを示す研究報告があります。 これはパキスタンで重度の急性栄養不良になった 6-58 ヵ月齢の子供 185 名を 8 週 間にわたってビタミン D を摂取させた結果、運動能力と言語能力に優位な差が見ら れたとのことです。(※2)
また、ニューロンの分化や伸長を制御する、つまり、脳を成長させる機能があることを 示す報告もあります。
この中では、
「ビタミン D の受容体が中枢神経系を構成するニューロンやオリゴデンドロサイトやアストロサイトにも発現していることが確認されている。」
「ニューロンの分化や伸長、神経成長因子の産生を制御して脳機能に影響を与えると いった、ビタミン D の新たな生理作用が近年注目されている。」
といったことが述べられています。(※3)
このように、ビタミン D は血液脳関門を通過して、脳内での神経の成長と保護に役立 っているようです。
2.感情の安定化、ストレスからの保護
ビタミン D は脳内のセロトニンの調節や、身体全体のカルシウムの吸収(腎臓からの 再吸収、腸管からの吸収)を高める効果があります。これによって、神経伝達の安定化、感情の安定化が期待できます。
このような記事もあります。
「ビタミン D の受容体が脳内でも特に前頭前皮質や海馬、視床、視床下部などの部位に多く発現しているのが確認されています。その働きによって、ビタミン D が脳を酸 化ストレスから保護する一方、ドーパミンやノルアドレナリンといった神経伝達物質の 働きを改善させる働きがあることが明らかになっています。」(※4)
たとえば「冬期うつ」の原因もビタミン D にあるとされています。ビタミン D は主に皮膚 に紫外線が当たることによって産生されます。冬は日光の高度が下がるため、紫外 線照射が弱まること、また、厚着をすることによって、皮膚を覆ってしまうため、皮膚に紫外線が当たる機会が減ります。
これによって、夏に比べるとビタミン D が不足しやすいのです。北欧の方ではその影響はかなりあるといわれています。
ビタミン D の摂取はうつ病や認知症のような、神経伝達にかかわるお悩みをお持ち の方々や成長期のお子様の脳の発育・発達において、大いに役立つ可能性がありま す。そのほかの、様々な神経伝達にかかわる栄養素と合わせて考えてみてもいいの ではないでしょうか?
1.コレステロール+日光
ビタミン D はそもそもコレステロールから合成されるので、まず、コレステロールをきち んと摂取しましょう。そのうえで、皮膚において紫外線を浴びることで合成されるので 日光に当たることがとても重要です。
中でも、コレステロールの合成に役立つ光の波長は紫外線の中でも UVB の領域だと いわれています。この波長の紫外線が当たらなければ、あまり効果はないといえるで しょう。単に、紫外線に当たればいいというものでもないのです。
オゾン層を通過する紫外線の波長は、UVA と UVB に分けられますが、中でも地表に 到達する紫外線のうち UVA の占める割合が99%であることを考えるとUVB は1% 未満ということになり、非常に貴重です!良く晴れた日の、太陽が高い位置にある時 間帯、つまりお昼前後でないとなかなか効果的に浴びることはできません。
だからこそ、北欧のような緯度の高い国では、国家的にビタミン D 不足に対しての対策を行っているわけです。
日本でもやはり、かなり意識的に、いい天気のいい時間帯の日光を浴びなければ 基本的には不足するといえるでしょう。ビタミン D の活性化には 15 分から 20 分の日 光の照射が必要という報告もあるので最低でもそのくらいの時間は日光に当たりたい ところです。(余談ですが日焼けサロンでも UVB の波長をきちんと浴びられるように 調節が可能らしいです。)
このように、コレステロールをとって、たっぷり UVB に当たっていればビタミン D は十 分に産生されるのですがコレステロールはそのほかのホルモンにも転用されますの ですべてがビタミン D になるわけではなく、意識的にビタミン D を増やすには、やはり ビタミン D を含む食品をとることも考えた方がよさそうです。
2.食材
ビタミン D には動物性の D3 と植物性の D2 があります。人間の体内でつくられるの は動物性の D3 ですが、機能としては D3、D2 ともに同じと考えてよさそうです。
残念ながら、D3 と D2 ともに、食品の種類が非常に限られており悩ましいところです。
D3ならば、脂の多い魚類:カツオ、アンコウ肝、サケなど または、内臓ごと食べられる魚類:ししゃもやしらす干しなど
D2ならば、日光で干したシイタケやキクラゲなどのシイタケ類
ちなみに、シイタケ・キクラゲは日光に当たっていないと不十分です。日光の紫外線を 浴びていない、人工的に乾燥しただけの干しシイタケ、乾燥キクラゲでは、含有量が 不十分かもしれません。買ってきた食材を、自分で日光に1~2時間当てるのも一つ の方法です。
このように、食材が限られていることもあり、サプリメントの活用が特に効力を発揮す るビタミンです。また、すべてのビタミン、ミネラル類にいえることですが、最低限の健 康維持に必要な量を食べているだけでは、「維持」には足りても「改善」には至らない ため、しっかりと分量の目安を決めて、サプリメントで摂取する方が狙った結果が得や すいと思います。
3.サプリメント
実は、ビタミン D はビタミン A と共通の受容体をもっていて、ビタミン D と A が互いに 競合するのか?それとも、効果を高め合うのか?という研究があったのですが、現状 では、どうやら効果を高め合うようだということで決着したようです。
つまり、ビタミン D のサプリメントにはビタミン A が混ざっているほうが望ましいので す。
多くのビタミン D サプリメントは羊毛中のビタミン D を精製して作られているのです が、その場合ビタミン A の含有量がほぼない状態となるので、タラの肝油など、我々 が従来摂取していた食材から抽出し、あえてビタミン D 以外の有効成分を残してある サプリメントの方が、同量あたりの効果は高いとみていいでしょう。これは、サプリメン ト選びのひとつの基準になりますね。
気になるのは過剰摂取による危険性です。
ビタミンDの場合、過剰摂取によって高カルシウム血症、腎障害、軟組織の石灰化障害などの症状が表れる可能性があります。しかし、これはかなりの高濃度で長期間摂り続けた場合ですので、サプリメントの補充でも極端なことを避ければまず大丈夫です。
通常サプリメントに使用されているビタミンDは「25-(OH)ビタミンD3」となっていると思います。(または25位水酸化ビタミンD3、25-ヒドロキシンビタミンD3、25(OH)ビタミンD3、カルシディオール(calcidiol)など。これらはすべて同じ意味です。)
これは、ビタミンDが活性化する前段階で、実際には、各細胞内でこれを必要に応じて活性型へと変化させてから使用します。その段階で、必要に応じて調整が行われますので、摂取量がそのまま危険につながることはありません。しかし、それでも調整が効かないほどの度を過ぎた過剰量であれば、問題につながる可能性はありますので、あまりにも極端なことは避けたいですね。
さて、ここまでステロイドホルモンの一種ともいえるビタミン D についてでした。ここで 話を変えて、同じくステロイドホルモンの一種であるエストロゲンを取り上げたいと思 います。
エストロゲン、アンドロゲンなどのステロイドホルモンもビタミン D と同様に、血液脳関 門を通過できます。よって、卵巣などの臓器によって合成されたステロイドホルモンは 脳まで届きます。
でも、それだけではありません!脳内、特に海馬においては、その場でもこれらのス テロイドホルモンが産生されています。そこで、これを神経ステロイドとかニューロステ ロイドと呼ぶことがあります。
特にエストロゲンは、神経細胞の栄養・成長・新生・シナプス増加と細胞死を抑制する 保護作用の両面において神経細胞を健康に保つ効果があることが認められていま す。そして、この効果はビタミン D と非常に似通っています。受容体からどのように情 報が伝達されてそのような効果が起こるのかについては、1995~2015 年の 20 年間 でかなり進みました。
以下参考記事に、ニューロステロイドの研究にまつわる歴史がまとめられています。(※5)
脳に対する効果の作用機序という点においては、ビタミン D よりもエストロゲンの方 が研究が進んでいるようです。
成人の脳では、脳の全領域にエストロゲンの受容体が発言しているわけではありま せん。視床下部などの間脳と、海馬、偏桃体などの大脳辺縁系に集中しています。し かし面白いのは、脳を障害する実験を行うと、それによってその他の脳の領域も含め てエストロゲン受容体が広範囲に出現するということです。緊急時には脳を再生する ために、エストロゲン受容体を作り出す機構が備わっているのですね。
ところで、胎児の脳では、エストロゲン受容体が脳の全領域に広がっています。これ が胎児の脳を女性脳にするか、男性脳にするかの決め手になるのです。
胎児における脳の男性化
もともと、我々の脳は、男性と女性で違います。その違いによって、異性を認めて、好 意を感じるようになります。つまり、男性は女性に好意をもち、女性は男性に好意をも つということです。
ラットでも性交時に、オスならばマウント、メスならばロードーシスという体勢を本能的 にとることが知られていますが、これは、脳の男性化、女性化がきちんと行われなけ れば、逆転することがあります。つまり、遺伝的にはオスであり、性器もオスでありな
がら、脳がきちんと男性化しなかったために、まるでメスであるかのようにロードーシ ス行動をとるということが起こりうるのです。
ヒトのゲイ・レズビアンという問題もここに起因している可能性が高いです。遺伝的に は男性なのに、脳は男性化できずに成長してしまったために、女性としての行動をし てしまうのがゲイであるということになります。このような脳の男性化、女性化が起こ るには臨界期があって、臨界期を過ぎてしまうと、一度確定してしまった男性脳、女性脳を覆すことはできません。ヒトの場合は女性脳がベースです。そこにテストステロン が働きかけることによって、男性化が起これば、男性脳となりますが、そうでなければ そのまま女性脳となります。胎生第 20 週から男性化がはじまり、臨界期は5~7か月 目となります。
ひとつ面白い話が、脳の男性化に使われるのは、精巣から放出されるテストステロン ですが、それが脳の中に入った後、脳内の神経細胞でエストロゲンへと代謝されま す。代謝される場所は主に視索前野や視床下部であり、臨界期まではこの部分が活 性化してアロマターゼ(テストステロンをエストロゲンへと代謝する酵素)が豊富に産 生されます。そして、このエストロゲンが、エストロゲン受容体に作用することで男性化が起こるのです。脳を男性化させているのは、直接的にはテストステロンではなくエ ストロゲンであったということになります。ですので、男性化が起こる期間は、脳のい たるところにエストロゲン受容体の発現が見られます。
ところで、女性の場合は、エストロゲンを豊富に産生しているのですから、それが直接 脳に入ってしまうと、男性化してしまうことになりますよね?一見面倒なことですが、女 性の場合は、エストロゲンが脳内に入らないように、結合タンパクをエストロゲンにくっ つけて血中に放出しているそうです。そうすることで、血液脳関門を通り抜けられなく するのですね。もしこの機構がうまく働かなければ、女性なのに脳が男性化してしまう ということが起こり得ます。
さて、ここまでは胎児の話ですが、出生後の脳においてはどうでしょうか?先ほども述 べましたように、エストロゲンの受容体は間脳と海馬、偏桃体に集中しています。
エストロゲン受容体は、男性にとっても、女性にとっても脳内で重要な役割を果たして いるわけで、男性においてもエストロゲンの存在は必要です。男性の場合は、精巣か ら分泌されたストステロンをエストロゲンへと代謝しているのは脂肪、神経、筋肉内部 のアロマターゼという酵素です。ちなみに、閉経後の女性と比べると、男性の方が血 中のエストロゲン濃度が高いことも珍しくないそうです。一方、閉経後の女性は、副腎 から分泌されたアンドロゲンを脂肪のアロマターゼで代謝してエストロゲンを合成しま す。閉経後の女性にとっては、エストロゲン合成の主な臓器は脂肪組織ということに なるので、それなりに脂肪を蓄えていることは重要です。
ここで、老化による認知機能の衰えとエストロゲン濃度の減少との関連に気付くことで しょう。エストロゲンが脳内で神経細胞の新生・シナプスの新生・神経細胞の保護を行 っているとすれば、これが老化とともに減少していくことは、脳の神経回路の劣化へと つながります。
実は、単純に記銘力をテストしてみても、閉経前の女性において、生理周期によるエ ストロゲン量の変化があるわけですが、エストロゲン濃度が高い期間の方がテストの 結果が良いという報告があります。男性においては、周期的に変化しないのでこのよ うな実験はできませんが、おそらく同様の影響があるのでしょうね。
ところで、エストロゲンと同じくステロイドホルモンの一種となるコルチゾールがありま す。大きなくくりでいえば、糖質コルチコイドです。抗炎症作用を示すホルモンとしてと ても効果があり、ステロイド薬にも使われています。
これも、エストロゲンと同様に血液脳関門を通過できるので、脳内の神経細胞に影響 を及ぼします。特に海馬の神経細胞を萎縮させます。海馬のシナプス結合を減少さ せることになるので、記憶の低下などの結果を引き起こすことが考えられます。
コルチゾールは、精神的ストレス、肉体的ストレスのほかに、炎症や低血糖によっても 放出されます。炭水化物の過剰摂取を控え、血糖値を安定に保つ習慣は、コルチゾ ール濃度を安定させ、健全な記憶力を保つ意味でも非常に大きな意義があります。 げんに、糖尿病により、アルツハイマー病のリスクが倍増するという報告があります。 また、もし一般的に慢性炎症がアルツハイマー病のリスクを増大させるとすれば、そのメカニズムにおいてコルチゾールの影響は大きいかもしれません。ということは、ス テロイド薬の長期使用も・・・?
炎症を抑えてコレステロールをとろう!
このように、脳においては性ホルモンが機能を促進し、ストレスホルモンは機能を低 下させることになります。今のあなたが、最高の脳パフォーマンスを発揮するために、 性ホルモンの材料となるコレステロールを是非多く摂ってください。
そして、ストレスホルモンの分泌を適正にするために、炎症を起こしやすい体質に傾 かないように注意しましょう。赤ら顔の方や、下痢気味の人、皮膚炎のある人、気管 支炎や鼻炎のある人、アレルギー傾向にある人、これらはすべて炎症傾向の表れで す。日頃摂取する油をオメガ3系(主に魚類)多めを心がけ、グルテン、カゼインを避 け、乳酸菌を取り入れられる酸味のある漬物などを取り入れましょう。糖質過多も炎 症の誘発につながります。日頃の炭水化物の摂取量を減らしてみたとき、体調にどの ような変化が表れるのか、試してみるといかがでしょうか?
このような心がけは、将来の認知的な症状の予防策としても大変効果的です。そう考えると、とても価値のあることですね!
今回は、東京都世田谷区 ちゅうしん整体院院長 村山先生のブログをご紹介しました。