◆味の5要素
人工の味・自然の味
味の素はグルタミン酸ナトリウム。その発明の経緯について Google Arts & Culture には以下の記述があります。
基本味は甘味、酸味、塩味、苦味の 4 つであると長く思われてきました。しかし、この 4 味では説明できない「もうひとつの味」が存在することに気づいた学者が日本にいま した。旧東京帝国大学(現・東京大学)の池田菊苗(いけだきくなえ)博士です。池田博 士は昆布だしの主な成分がグルタミン酸塩であることを発見し、その味を「うま味」と 命名しました。そして、うま味は基本味のひとつであることを論文に記しています。
出典:https://artsandculture.google.com/story/fAVR-YosF-aaJg?hl=ja
これを工業化して売り出したのが味の素です。
このような、天然に存在する味の成分を分析し、工業的に大量生産して商品にしよう という試みは、古い昔から行われてきたことであり、その歴史の中では味の素は比較 的最近の発明であるといえるでしょう。
かつて、甘味、酸味、塩味、苦味の4つを基本要素とされてきた味覚は、池田博士に よって5つに拡大し、今なお拡大し続け 厳密な科学的裏付けとは別に、冷たさ、しびれ、金属味、渋味、辛味、カルシウム味、 コク味、でんぷん味などというものもあります。
◆舌の味覚地図は誤訳の産物
甘味は舌の前側、苦味は後ろの方、酸味は側面に近いあたりで感じられるという、 「味覚地図」というものがありました。これは長い間信じられてきましたが、最近の研究によって、舌のどこの部分であって も、それぞれの味蕾は5つの基本的な味覚のすべてを感じていることがわかりまし た。
この「味覚地図」という誤解の出どころは、ドイツ語の誤訳だとされています。
◆遺伝による味覚の違い
同じ物質を味わっても、人によってかなり感じ方が異なるケースがあります。 たとえばパクチーであれば、芳香、柑橘のようだと感じる人もいれば、石鹸のようだと 感じる人もいます。
また、世界の人口の約 1 割がバニラのにおいを感じないのだそうです。(嗅覚も味覚 にかなりの影響を及ぼす)
◆時代によって変遷する味わい
味わいを人工的に作ろうという試みは、たとえば、フルーツの味わいを、化学薬品に よって作り出そうという発想で、化学の黎明期から様々に行われてきました。 アメリカでは、すでに 19 世紀中ごろに、人口のバナナ味が出回っており、一般庶民に とってはバナナそのものが手に入りにくい、希少価値の高い時代に、すでに人口のバ ナナ味によって、バナナの味がどのようなものか、広く知られていたそうです。
そのころバナナ味として人工的に合成されていたのは、酢酸イソアミルという物質で、 様々な食品に添加してバナナ風味の味付けとしていたのでした。 本物のバナナよりも先に、この酢酸イソアミルが出回ったことで、人々の認識には酢 酸イソアミルの風味こそがバナナの風味であるという認識が定着してしまいました。
ところが、現代に生きる我々からしてみると、この酢酸イソアミルはバナナの味わいか らはかなりかけ離れて感じます。
というのも、19 世紀中ごろに世界に出回っていたバナナは、現在では生産されていな い品種だからです。 その品種はグロスミシェルという品種で、すでに疫病によってほぼ絶滅しました。
現在は同じバナナといってもキャベンディッシュ種が取って代わって世界中で販売さ れています。これはグロスミシェル種とは似て非なる味わいであり、その風味や、そこ に含まれている化学成分は異なるのです。それゆえ、酢酸イソアミルはあくまでも、19 世紀中ごろの人々にとってのバナナ風味ということになります。
しかし、それでもなお、消費者のニーズや認識には、バナナ風味の人工甘味料として は、前世紀の遺物である酢酸イソアミルこそが納得のいくものとして受け入れられて おり、あえて、今の時代のバナナとはあまり似ていない酢酸イソアミルが、いまだに市 場に出回っているのです。
◆文化圏で異なる味わい
ブドウのコンコード種に似た味わいをもたらす化合物で、アントラニル酸メチルという 物質が、
アメリカで使われていましたがこれはもともと、香水に使われていた物質で それを電車の車内で嗅いで、ブドウのにおいであると同時に、ブドウの味わいを人工 的につくるのにも
使えると考え、利用したのが最初だといわれています。
ところが、このアントラニル酸メチルという物質は、ドイツとオーストリアでは オレンジの花の香りをもたらすものとして利用されていました。
といのは、ヨーロッパで主に食されていたブドウはヴィニフィラ種というもので、 その味わいがアントラニル酸メチルとは似ていなかったためだと考えられます。
これは、一口にブドウ、オレンジ、といっても、地域ごとに食卓に提供されている品種 が異なるからであった。 いまでは、このアントラニル酸メチルは偽物のブドウっぽい味わいとして人々に受け 入れられ
子供用の咳止めシロップなどに使われているが、
逆にそのため、コンコード種のブドウは、現代の人々にとっては 偽物のブドウのような味わいに感じられてしまうという 奇妙な逆転現象まで起こっています。
◆クロマトグラフィー分析で加速する人工の味わい
歴史的には、エッセンシャルオイル(精油)という形で 自然界に存在する食べ物そのものから、油分を抽出し それをそのまま、別の食品に添加することで オレンジやパイナップルなどの風味の味付けをしたのが人工の添加物の由来でし た。
その後、化学的に合成できる物質によって 自然界に存在する味わいの物質を模倣することが試みられるようになりました。
そのような研究の一番の武器となったのがクロマトグラフィーと呼ばれる 分析法です。
これにより、様々な混合物にどのような有機物が含まれているのかを 知ることが容易になりました。
そして、そのような混合物成分のすべてを再現するのではなく その中の、何を組み合わせれば、最小限の成分で 自然の味わいを再現できるのかを研究するところに 重要なポイントがあります。
ある時点では、これで完成だと思われていた 完璧な組み合わせでさえも その後、別の研究者によって、別の物質を付け加えると より完璧に近い味が再現されることが判明することもあります。
また、およそ、食べ物とは思えないようなものの味わいを 再現するという笑える例もあります。 ハリーポッターに登場する、ゲテモノジェリービーンズを 実際につくって、USJで販売しているというのもその一例です。
◆自然の模倣と科学技術
化学の発展によって、さまざまな物質の分析、合成ができるようになった結果 すでに自然界で生物たちが獲得している様々な特性、機能が 人の手によって再現できるようになってきています。
たとえば昆虫がもっている、壁に張り付く粘着力の能力であるとか 微生物が有する抗菌力、免疫力を発揮するタンパク質などです。
味わいの再現も含めて、我々は、化学物質をより精密に扱える技術を獲得することで より一層、自然界に当たり前のようにしてある様々な現象を 模倣し、再現し、そしてそれに驚嘆の念を抱くようになっていくことでしょう。
本日は、東京都世田谷ちゅうしん整体院 村山先生のコラムを紹介いたしました。