事前に知らされていて、時間もわかっている避難訓練。 火災報知器が鳴って、あなたは即座に動きますか? 多分、周りの様子をみながら、周りが動き出すのを待ってそれを真似しながら、のそのそと行動を始めるのではないでしょうか?
訓練なんてそんなもんでしょ? って思いこんでいるあなた。その考えは、ちょっと危険かもしれません。
実は、実際の災害現場でも同じことが起こることが知られています。
そう考えるとどうでしょう? 仮に火災報知器が鳴ったとして、あなたはすぐに動けますか? 多分、周りがどう動くのかを見たり、周りの人に意見をきいたりしてそのうえで何をしようか判断しようとするのではないでしょうか?
ほとんどの人にとって心当たりがあると思います。 これは、人間の習性といってもいいような根深い脳の反応が引き起こしている現象といえそうです。
たとえば、密閉空間の中で、火災が発生したときにあなたは誰もが正面の大きな扉に向かっているのにも関わらず正しい行動として、一番自分に近い非常出口を使おうと考えて行動できるでしょうか?
もしその非常出口に誰も向かっていないとしたら そんな中で一人だけそこに向かおうとするのは相当な勇気が必要なはずです。
人は、危機的状況に陥ったとき、そして、それに関する情報が不十分なとき 本能的に、自分一人で行動するのに大きな不安と恐怖を感じます。 たとえば、火災報知器が鳴っているけど、火元がどこだかわからなくて 危険の原因が目に見えない時、人は自分の行動を、その場にいる集団にゆだねて、自分で判断することを放棄します。
厄介なのは、自分では、あたかも自分の判断で行動したように感じてしまうということです。 そこまで、脳の奥深くのメカニズムというのは、あまりにも自然に、自動的に我々の意志に強い影響を及ぼしているのです。
こんな面白い実験もあります。
エレベーターという閉鎖空間の中で、 実験のために仕込んだ仕掛け人が一人乗り込んで 実験を知らされていない一般の人の前で カバンの中の小銭やらペンやらを不器用にひっくり返して ぶちまけてしまいます。
果たして、それを拾うのを手伝う人が何人いるのかという実験です。
この実験のポイントはエレベーターの中に何人乗っているかです。 一般人が一人だけの場合は、そこそこの確率(40%)で 物を拾うのを手伝ってくれるのですが
6人程度乗り合わせると、みな、互いに誰かが行動を起こすのを 見守りながら、結局誰も拾うのを手伝わないということが頻繁に起こり 結局誰かが手助けをしたのは 15%にまで低下しました。
我々の生活の中では、たとえば、ご老人に座席を譲るとか、 道端に落ちているごみを拾う なんてことをするときに、誰もやっていない中で 一人だけそのような行動をするときに勇気を必要とされるということが 思い当たると思います。
9.11 の同時多発テロ事件においては 飛行機に突っ込まれた世界貿易センタービルにおいて、
88 階と 89 階の2つのフロアに分かれている会社の社員の 行動が真っ二つに分かれたという興味深い現象があったそうです。
同じ社風に染まり、互いの団結力が強かったのは 88 階の社員も 89 階の社員も同じでしたが
なぜか 88 階の社員は1人を除く全員が、隣のビル(ノースタワー)に飛行機が衝突し て
炎上しているのを見てから、次に自分たちのビルに飛行機が衝突するまでの
10 数分の間に階下へと逃げ出して飛行機の衝突を免れたのに対し
89 階の社員はほとんど全員が逃げ出さなかったため 残念ながら飛行機の衝突による犠牲者となってしまったのでした。
その原因は 88 階では、たった一人の男性が、隣のビルの炎上を見てから 逃げるように叫びながらフロアを走り回ったおかげで、 集団全体が逃げる行動へと動き出すことができたのにたいして
89 階ではそのような人物があらわれなかったため 結局、集団全体としては行動を起こすに至らずそこにいた大多数の人は、集団全体の行動に従うという本能から逃げ出さずに時間を過ごしてしまったのでした。
実は、88 階で唯一亡くなられた社員というのは
88 階の全員に逃げるように促した方でした。 この方は、自分は逃げずに 89 階の人たちを逃がすために 上の階へと移動したところで、飛行機の衝突にあってしまい亡くなられてしまったのでした。
我々は、閉鎖された空間(乗り物の中や屋内、トンネルの中など)において何らかの行動を迫られたときに、 無意識のうちに、周囲の顔色を窺い、その場にいる集団全体の行動に身を任せようとします。
しかも、そうしていることに自分では気づかず、 あたかも自分で理性的に判断した結果として行動したと思ってしまいます。
この傾向を覆すには、よほどの勇気と決断力が要求されます。 日ごろから心して生活を送り、自らの判断力を鍛えることが大切です。
本日は、東京都世田谷ちゅうしん整体院 村山先生のコラムを紹介いたしました。